セブン銀と伊藤忠が提携/「ローソン銀」は不要!/「イーネット」存続の危機

2025年11月号 BUSINESS

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ローソン銀行の熊谷智社長(HPより)

コンビニATM業界で、ライバル陣営がタッグを組んだ。セブン‐イレブンの店舗を中心にATMを設置・運営するセブン銀行と、ファミリーマートを傘下に置く伊藤忠商事は9月26日に資本業務提携を発表。伊藤忠が10月14日にセブン銀行の自己株式を買い取って16.35%を出資し、ファミマの店舗にセブン銀行のATMを設置する。さらに出資比率を20%まで高め、伊藤忠がセブン銀行を持分法適用会社化する方針だと表明した。

ファミマの店舗には現在、約1万6千台のATMが置かれている。このうち7割は金融機関やファミマなどが出資するイーネットのATMで、残り3割がゆうちょ銀行のATMだ。「伊藤忠はイーネットのATMに長年不満を抱えていた」。セブン銀行関係者がこう話す通り、イーネットのATMの絶望的な競争力が、セブン銀行と伊藤忠の資本業務提携に発展した。

キャッシュレス化の進展によってATMから現金を引き出す機会が急減する中、いまやコンビニATMはスマホ決済アプリへの入金など多様な利用機会を模索していく必要がある。セブン銀行はこうした機能をいち早くATMに導入してきたが、イーネットのATMにはこうした機能がない。ファミマの決済アプリ「ファミペイ」にも対応できておらず、「まるで武士の商法」と嘲笑される始末だ。そのため1台当たりの平均利用件数は、セブン銀行ATMの「4割程度ではないか」(前出関係者)と推察されている。ATM利用者の減少は、ファミマ店舗の客足減と売上減に直結するため、伊藤忠にとっては看過できない問題だった。

セブン銀行は来春からファミマの店舗に同社のATMを設置し、数年かけて置き換えていく。イーネットは主戦場のファミマを失うことになり、存続が難しくなるのは言わずもがな。「数年のうちに解散に向けた検討をせざるを得ない」(地銀幹部)

このとばっちりを受けることになるのが、ローソン銀行だ。実はローソン銀行とイーネットは、各金融機関との中継システムを共同利用しており、費用もお互いで折半している。イーネットが解散する事態になれば、その費用はローソン銀行が全額負担することになるが、同社にとてもそんな経営体力はない。利上げによって全国の銀行が金利収益を享受する中、ローソン銀行の2025年3月期決算は最終利益が前期比84.1%減の3億円に沈んだ。貸出機能がないに等しいにもかかわらず、いっちょ前に預金は集めているため、金利上昇によって調達コストだけが膨らんでしまっているからだ。

主力のATM事業も鳴かず飛ばず。セブン銀行は20年3月末から25年3月末にかけてATM台数を11%伸ばしているが、ローソン銀行の伸び率はわずか3.9%。1台当たりの平均利用件数/日(25年3月期)も、セブン銀行の108件に対し、ローソン銀行は58.9件と、ダブルスコアをつけられている。

18年10月に事業を開始したローソン銀行は、新生銀行の常務だった山下雅史氏を初代社長に据えて始動した。だが、なかなか事業を軌道に乗せられず、ローソンの親会社である三菱商事が同氏をわずか3年で解任。三菱商事出身の鶴田直樹氏を後任に当てたが、こちらも業容を拡大できず、25年3月に辞任した。

セブン銀行は、デザインが異なるATMをファミマの店舗に配置していく方針だ。ローソンにおいても、機能に優れたセブン銀行のATMをローソン仕様のデザインにして展開したほうが、各店舗の売上につながり、コスト面でも合理的だと誰もが気付いている。セブン銀行と伊藤忠の資本業務提携を契機に、ローソン銀行不要論が急速に高まり出している。

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