「サロンパス」が生け贄に/「久光製薬」のカタストロフ

自維政権が「OTC保険外し」という安直な成果、早い話が「子羊の生け贄」を求めているのは明らかだ。

2025年12月号 BUSINESS

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自民・維新連立の「生贄」か(自民党HPより)

「サロンパス」でお馴染みの久光製薬が大惨事(カタストロフ)に見舞われそうだ。事の始まりは高市早苗首相が10月24日の所信表明演説で「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し」を表明。OTC類似薬とは、効能や薬効は市販薬と同じだが、医療機関で処方されて保険適用となる医薬品のこと。花粉症薬や保湿剤、漢方薬、久光製薬が主力とする貼付剤などが代表的な薬となる。

高市政権は一部の薬を保険から外すことで国の医療費を減らす方針。保険から外れた途端に値段が大幅に上がる恐れがある。久光の貼付剤は過去にも保険外しの候補に浮上。再び危機が押し寄せる格好だ。

久光は1847年に久光仁平が創業した薬屋が源流。佐賀県鳥栖市に本店を構える老舗の製薬企業だ。1951年には「ミスター・サロンパス」と称される中冨正義が社長に就任。外用鎮痛消炎剤「サロンパス」をヒット商品に育て上げ、薬を「貼る文化」を日本に普及させた中興の祖・正義の孫が、現社長の中冨一榮だ。

「庇護者」衛藤晟一が引退

看板商品の既得権剥奪!(久光製薬HPより)

サロンパスの売上は、同社の売上高1560億円(25年2月期)の3分の1を占める。ドラッグストアーなどで安価な競合品が多数登場し、海外展開に活路を見出そうとしている。

医療用の貼付剤も振るわない。医療用では経皮鎮痛消炎剤の稼ぎ頭は「モーラステープ」「モーラスパップ」。年間で計200億円以上を売上げる。モーラスの13年2月期の売上は800億円超。文字通りドル箱だったが、あまりにも大量処方されたせいか、22年4月に1処方につき「原則63枚まで」の制限がかかり激減した。さらに昨年10月には後発医薬品への切り替えを促す制度が導入され、もはや黄昏の製品だ。

OTC類似薬の保険外しの具体的な検討はこれからだが、久光の「モーラスパップ」には類似の一般薬があるため、外される可能性が高い。仮にモーラスパップが保険適用外になった場合、代わりとなる一般薬はサロンパスではない。モーラスには「ケトプロフェン」という非ステロイド性抗炎症薬が含まれており、サロンパスとは別もの。代替品は帝國製薬の「オムニード ケトプロフェンパップ」になる。結果、久光の売上が減り、帝國製薬が潤うことになる。

久光も他社のOTC類似薬が保険から外れることで、一般薬であるサロンパスの販売が増える可能性はある。とはいえ、OTC類似薬外しが増えれば増えるほど「貼り薬除外」の勢いが強まり、「貼り薬」が専門の久光にとっては死活問題。保険適用の既得権を死守しなければならない。

特にパップ剤は過去の政権でも、たびたび保険外しの俎上にのぼってきた。実際、パップ剤、漢方薬、ビタミン剤は「3匹の子羊」と揶揄され、常に狙われてきた。小泉純一郎政権当時は日本医師会や日本薬剤師会が強固な抵抗勢力となり、安倍晋三政権当時は財務省の仕掛けに医療系団体などが猛反発、結局実現しなかった。

貼付剤や保湿剤といった外用薬は、飲み薬に比べて医療上のリスクが低いとみなされ、保険外しの標的になってきた。このため、外用薬を扱う製薬会社は政治家へのロビー活動に奔走し、既得権を守ってきた。

佐賀県に本社を置く久光が頼りにしたのは九州出身の国会議員。代表格は大分県選出の衛藤晟一(78)。安倍派の重鎮として入閣、安倍首相補佐官などを歴任した。久光は13年に衛藤に働きかけ「製薬産業政策に関する勉強会」を設立(武田薬品やアステラス製薬など11社が参加)。会長に衛藤を担ぎ、事務局長に佐賀県選出の福岡資麿(前厚労相)が就いた。小泉進次郎、小林鷹之も幹事に名を連ね、「衛藤勉強会」として威勢がよかった。厚生労働省や財務省に睨みを利かせたのはもちろんだ。

さらに22年には、自民党で衛藤を会長に担ぐ「日本が誇る医療用外用貼付剤の推進に関する議員連盟」を発足させ、貼付剤処方の枚数厳格化に反対するなど、久光の既得権擁護の提言を行った。衛藤が主宰する勉強会や議連の画策は、久光の政治力を印象づけた。ところが、久光の「庇護者」同然の衛藤が25年7月の参院選不出馬を表明。衛藤は勇退後も勉強会の会長を続けるようだが、パワーダウンは否めない。久光は政治的「後ろ盾」を失ったに等しく、再び保険外しの標的に浮上した。

同じく庇護者がいなくなったことで、保険外しの標的になりそうなのが漢方薬だ。漢方薬は「喧嘩太郎」こと日本医師会の元会長・武見太郎の腕力で保険適用が実現した経緯がある。息子の武見敬三(元厚労相)は、過去に自民党の「日本の誇れる漢方を推進する議員連盟」会長を務めるなど、医療用漢方の庇護者を果たしてきたが、7月の参院選であえなく落選。ツムラをはじめとする漢方薬メーカーは、久光と同じく「迷える子羊」になった格好だ。

明暗を分けるのが、皮膚の保湿剤の製造大手のマルホ(大阪市)。同社は高市政権下で保険外しを免れそうだ。首相が滋賀県選出の上野賢一郎氏を厚労相に抜擢したからだ。滋賀県には国内トップクラスの外用剤の生産拠点、マルホの彦根工場があり、「保湿剤には手をつけにくくなった」(政府関係者)ともっぱらだ。

「自維」連立で一気に加速

そもそもOTC類似薬を巡っては6月に自民、公明、維新の3党で「保険給付の在り方の見直し」を早期に進める方向で合意。25年度末までに何らかの合意を得て、一部を26年度から実行する予定だった。保険外しに積極的な維新は28成分をリストアップ。保険外しで最大1兆円の削減を目指すと息巻いていた。

急先鋒は維新の参院議員・猪瀬直樹。日本医師会や衛藤の議連を「抵抗勢力」と酷評。3党間では患者負担が増えることに慎重な公明党がブレーキをかけ、バランスを保っていた。ところが、公明が自民との連立を離脱。自・維連立政権が誕生したため、一気に加速した。厚労省は年末までに結論を出す方針だ。

OTC類似薬の保険外しは、国民の負担増に直結し、世論の反発を招きやすい。既に保湿剤に関しては、6月に難病患者の家族らが反対する署名を集めて厚労省に提出した。SNS上では弱者いじめ、病気を抱える高齢者叩きと、高市政権への批判コメントが溢れている。

久光は保険外しについて、具体的な議論が始まらず先行き不透明を理由に明確な見解は示していない。しかし、「自維」連立で激変した新政権がOTC類似薬の保険外しというわかりやすい成果、早い話が「子羊の生贄」を求めているのは、誰の目にも明らかだ。庇護者を失った久光製薬や漢方薬企業がカタストロフを免れるのは容易でない。(敬称略)

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