対米投資「SMR」「アラスカ」日本だけ前のめり

政府はトランプの機嫌を損なうことしか頭になく、後から大きなツケが回る恐れも。

2026年5月号 BUSINESS

笑顔のトランプ米大統領と高市首相(3月18日、首相官邸HPより)

日米の関税交渉の合意に基づく対米投資5500億ドル(約87兆円)のプロジェクト選定が異例のハイスピードで進んでいる。2、3月には第1弾と第2弾プロジェクトが相次いで発表され、その総額は約17兆円に上る。トランプ米大統領の気分を害さないよう、日本が大急ぎで慌てて、こしらえたものだが、その忖度ぶりには危うさもつきまとう。後から大きなツケとして回ってくる可能性もある。

対米投資は昨年7月、米国に相互関税や自動車関税を15%に引き下げてもらう代わりに、日本が米国に巨額の投資を約束した枠組みだ。トランプ氏の任期である2029年1月までに達成することが求められ、年平均で30兆円近くの案件を次々に打ち出していかねばならず、日本政府は昨年末から出資や融資をする国際協力銀行や日本貿易保険も交え協議を行ってきた。

2月の第1弾では、ガス火力発電所や原油輸出施設整備、人工ダイヤモンド製造の3事業(計360億ドル)を発表した。ガス火力発電所はオハイオ州に建設され、トランプ氏は米国史上最大だと宣伝する。しかし、オハイオは11月の中間選挙で激戦が予想される地区の一つ。トランプ氏の選挙アピールに日本が手を貸した構図だ。

3月の日米首脳会談に合わせ発表された第2弾は、次世代原発の小型モジュール炉(SMR)建設などが盛り込まれ、事業規模は最大730億ドルに上る。トランプ氏は米国内の原発発電容量を4倍に増やすことを掲げており、こちらもトランプ氏好みの案件を日本がそろえた。

しかし、日本政府の露骨な米国への忖度ぶりにはリスクも伴う。

対米投資の枠組みは日本以外の多くの国や地域が合意している。しかし、EUや韓国などは詳細なプロジェクト発表には至っておらず、世界的に見ると投資案件を次々に決めている日本の突出ぶりが際立つ。政府系金融機関の出融資であるため、巨額損失が出れば国民負担にもつながりかねないにもかかわらずだ。金融関係者は「日本政府は、トランプの機嫌を損ねないようにすることしか頭にない」とため息を漏らす。

こうした懸念を反映するかのように対米投資の第2弾は第1弾に比べトーンダウンしている。第1弾の発表文では3つの案件について「推進することで一致した」とし、参画企業の具体名まで書かれていたが、第2弾は「詳細について連携しつつ、誠実かつ迅速に、さらなる作業を行う意図を有する」と遠回しな文言となり、参画する具体的な企業名もほとんど記されていなかった。そもそも、SMR建設は世界的にも実用化できているのはわずかで、資源エネルギー庁元幹部は「原発建設のようなリスクのある事業を政治主導で決めていいのか」と首をかしげる。

第3弾以降でもさらなる巨額プロジェクトが控えているが、順調に進むのかは見通せない。

3月の日米首脳会談で確認されたアラスカ産原油の増産協力プロジェクトはその筆頭で、原油の中東依存に悩む日本にとって調達の多角化につながり、距離も近いため期待は大きい。

しかし、アラスカで生産された原油はほとんど国内で消費され、生産量も減少している。気象条件が厳しいアラスカで増産する場合、コスト高になりやすく、数年単位のプロジェクトになることは必至。足元のエネルギー危機には対応できない。日本政府は「対米投資は両国にウィンウィンだ」と強調しているが、果たして日本の利益に結実するのかは実は関係者の誰にもわからないのが実情のようだ。

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