新聞、テレビは「後追い」専門。『赤旗』の記者以外は取材の基本ができていない。
2025年2月号 DEEP
政治史に残る大スクープ!(2024年10月23日付『しんぶん赤旗』一面)
与党が過半数割れに追い込まれた昨年10月の衆院選。自民党は裏金事件の逆風が強く、裏金議員の一部を非公認としながら、裏では2000万円の「活動費」を出していたことが発覚し、トドメを刺された。裏金事件の端緒がしんぶん赤旗日曜版(週刊)の報道だったことは、昨年の本誌2月号と10月号で伝えたが、裏金議員側への2000万円も、赤旗の今度は日刊版がスクープした。なぜ共産党の機関紙だけが、自民党の内幕を繰り返し暴露できるのだろうか。
赤旗日刊版が「裏金非公認に2000万円」と報じたのは、衆院選投開票4日前の昨年10月23日――。記事によると、同紙は自民党の森山裕幹事長が党支部の会計責任者に出した同9日付の「支部政党交付金支給通知書」を入手し、各公認候補が支部長を務める支部には公認料500万円、活動費1500万円の計2000万円が送金されたことが分かった。
裏金事件で公認されなかったのに、支部長のままの候補が8人いたことから、同紙が各支部に取材したところ、ある支部の会計責任者が「党本部から党勢拡大のための活動費ということで2000万円が振り込まれた」と認めた。党本部から送付された同13日付の文書には「活動費」として振り込むとなっていた。「公認料」の文字はなかったという。
関係者によると、この記事までには次のような経緯があった。
三浦誠社会部長
まず衆院埼玉6区(埼玉県鴻巣、上尾、桶川、北本4市)で立候補した共産党の秋山もえ候補が同15日、同じ選挙区の中根一幸候補の選挙ポスターに「自民党非公認なのに『自民党』って入っていたわ」とXに投稿した。旧安倍派の中根候補は1860万円を政治資金収支報告書に記載せず、昨年4月4日付で党役職停止6カ月の処分を受けていた。これを読んだ赤旗日刊版の三浦誠社会部長は、公選法違反の虚偽事項公表罪に当たるのではないかと考え、同選挙区内に住む赤旗広告部員と共産党埼玉県中部地区委員会を介し、中根候補のポスターの写真を手に入れた。
中根一幸候補の「選挙公報」。自民党支部長と書いてある
ポスターには「自民党」と小さく書いてあるだけでなく、「自民党支部長」と大きく出ていたことから、三浦部長は埼玉県選挙管理委員会に中根候補が自民党埼玉県第6選挙区支部長のままかどうかを問い合わせた。同支部の支部長に異動はなく、虚偽事項公表罪ではないことがわかったが、非公認なのに自民党支部長というのは、有権者に誤解を与えるのではないかと思い、他の非公認候補についても調べた。
その結果、上杉謙太郎(福島3区)、三ツ林裕巳(埼玉13区)、平沢勝栄(東京17区)、小田原潔(同21区)、萩生田光一(同24区)、細田健一(新潟2区)、高木毅(福井2区)の7候補も同じように支部長のままだった。一方、党員資格停止1年の処分を受けた西村康稔(兵庫9区)、下村博文(東京11区)、離党勧告に従った世耕弘成(和歌山2区)の3候補は支部長を退いていた。
このうち高木候補は1019万円の不記載で、昨年4月に党員資格停止6カ月となり、支部長を務めていた自民党福井県第2選挙区支部をいったん解散し、昨年10月9日に同名の支部を設立していた。石破茂首相は同6日に高木候補の非公認を発表していたのに、高木候補は選挙のために支部を再設立したように見える。
赤旗日刊版は同19日、非公認なのに党支部長の候補が8人いると特ダネを報じたが、新聞・テレビは後追いしなかった。
「衆院選が既に公示され、選挙戦に入っていたので、政治的公平を理由に無視したのだろう」と大手紙の元記者。しかし、日本新聞協会の編集委員会は1966年12月に公選法上、新聞は通常の報道、評論をやっている限り、無制限に近い自由が認められていることを確認し、事実に立脚した自信のある報道、評論が期待されているとの見解を公表している。またテレビも放送法4条の「政治的に公平であること」という番組編集準則はあるものの、公選法151条の3は選挙報道・評論の自由を定めている。元記者は「新聞・テレビが非公認支部長の段階で書いておけば、2000万円の送金も取材の網に引っかかったかもしれない」と語る。
トドメの2000万円問題は、赤旗日刊版の矢野昌弘社会部副部長が公認候補と同様に非公認候補にも送金されているのではないかと考え、8人全員に質問状を送り、各支部の関係者に次々に取材を試みて確認したという。
今度は新聞・テレビも後追い取材に動き、赤旗日刊版が報じた同23日の正午すぎ、森山幹事長が2000万円の送金を認め「政党支部に対して…党勢拡大のための活動費として支給したものです。候補者に支給したものではありません」とのコメントを発表。新聞・テレビはこのコメントを報道した。共同通信が翌24日付朝刊のトップ級に指定したこともあって、東京新聞や佐賀新聞などの地方紙は1面トップに据えた。
これに対し、石破首相は24日、広島市内の演説で「きょうの中国新聞にも出ておりました。公認していない候補者に金払ったんじゃないの。そんなことはございません。政党支部に出しておるので、非公認候補に出しているのではありません」と反論した。
そのうえで、自民党が惨敗した2017年の東京都議選で、安倍晋三首相が自らに批判的な聴衆に対して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と言い放ったのと同様に、石破首相が「私どもはそのような報道に負けるわけにはいかない」と述べ、衆院選大敗を予想させた。さらに自民党総裁・幹事長室は「わが党の支部政党交付金に関する報道について」と題する文書を公認候補らに送付。「(赤旗日刊版の記事は)違法性などについて一切触れておりません…選挙における…『偽装公認』という指摘は一切当たりません」などと釈明したが、後の祭りだった。
元記者は「内心やましい自民党の過剰反応が新聞・テレビに報道を促した。そもそも記者は、非公認候補のポスターに『自民党支部長』と書いてあれば、すぐ取材しなければならないし、非公認の候補とその関係者に総当たりすべきだ。赤旗は基本通りの取材を続けているから、自民党のネタでも抜ける。赤旗以外の記者は取材の基本ができていない」と指摘する。
また「選挙期間中の報道をことさら控えると、SNSで虚偽の情報が流布され、選挙結果に影響することは兵庫県知事選で経験済みだ。ラグビーではないが『前へ、前へ』という気構えが報道機関には不可欠だ」と話している。