鳥井信吾大商会頭が再び「万博に100回行くぞ!」宣言/火が付いた「アトラクション人気」/来場者の「8割が満足」

号外速報(5月26日 16:00)

2025年6月号 BUSINESS [号外速報]
by 竹田忍 (産業ジャーナリスト)

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そこここで大人気のミャクミャク!

5月19日、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)の総来場者数が400万人を超えた。

チケットの販売総数も同日までに1200万枚を超えた。売り上げは前の週よりも約51万枚増えた。明らかに弾みがついている。

関西財界は万博開催に向けて尽力してきた。大阪商工会議所の鳥井信吾会頭(サントリーホールディングス副会長、72)もその1人で、万博を主催する日本国際博覧会協会の副会長も兼ねる。

翌20日、鳥井氏は万博会場のパビリオン視察に向かった。開幕前の準備期間中を含めれば20回目の万博会場訪問となる。昨秋、鳥井氏は本誌インタビューに登場し、「万博に100回行くぞ!」と宣言していた。

https://facta.co.jp/article/202409019.html

今の勢いを維持すれば達成できそうだ。

地元の中小企業・スタートアップも元気!

午前9時、万博会場に到着した鳥井氏は大阪ヘルスケアパビリオンに向かった。

健康データをもとに作成した25年後の自分(アバター)と出会える「リボーン体験ルート」が人気だが、鳥井氏はそれ以外にもあちらこちらで立ち止まった。

IPS細胞由来の心筋シートを指さす鳥井信吾大阪商工会議所会頭

iPS細胞由来の心筋シートがピクピクと動く様子に見入っていたかと思うと、いつの間にか池田泉州銀行が設けた大阪の中小企業やスタートアップ企業の技術・サービスを展示するコーナーに移動していた。中小企業の団体である商工会議所のトップだけに前のめりだった。

久保井インキ(大阪・東成)が展示するアート作品や折り紙は表面をこすると微細なカプセルが壊れて香りが漂う。嗅覚は脳で記憶をつかさどる器官「海馬」と密接に結びついており、香りの記憶は強く残る。「見て、触れて、香りを感じることで癒しや認知機能の回復が期待できる」と聞くと、鳥井氏は折り紙を手に取って何度もこすり、匂いを嗅いでいた。

ハンモック状の介護機器「SASUKE」を試す鳥井氏

マッスル(大阪・中央)が開発した「SASUKE」という介護機器はベッドと車椅子の間で移動を介助する装置。「身体を支持する部分がハンモック状で背中や尻への負荷が小さい」と聞くや、すぐに身体を横たえて使い心地を試した。

水槽内にマングローブの生態系を再現したイノカ(東京・文京)のブースでは潮の満ち引きが起きると聞いて興味津々でのぞき込んだ。

うつし鏡の「ノモの国」、微笑ましいベトナム

「ノモの国」のご案内役、パナソニックHDの小川理子さんと記念撮影

パナソニックホールディングス(HD)のパビリオンに移動すると、体験型展示「ノモの国」を楽しんだ。

パナソニックHD執行役員の小川理子氏は「モノとココロがうつし鏡になった世界がノモの国」と説明した。「ノモ」は「モノ」を対置した言葉だ。映像と光、音、振動を駆使し、手に持った「結晶」を発光するオブジェにかざすと音が鳴る仕組みだ。鳥井氏は幾つものオブジェで試して光り方や音の違いを楽しそうに確認した。

母親の準子さんは幼い頃の鳥井氏を「知りたがり屋」と表現している。「葉っぱの中には何が入っているの」「サルとヒトの違いは」などと次々に質問する子どもだったというが、それは今も変わらない。とにかく何でも色々と試してみたいらしい。

鳥井氏はしばしば「原料は同じなのにビールは工場で飲むできたてが一番おいしく、ウイスキーは長い時間をかけて熟成すると味が良くなる」と話す。この違いが知的好奇心を刺激する。ウイスキー業界にはウイスキーの味について全責任を負う「マスターブレンダー」という役目がある。その判断と決定には経営陣も口をはさめない。

鳥井信吾氏は、祖父でサントリー創業者の鳥井信治郎氏、2代社長の佐治敬三氏に続き、2002年に3代目のマスターブレンダーに就いた。ウイスキーの神秘探求に傾けるのと同じ熱意が万博視察時に垣間見えた。

たおやかな民族楽器の演奏を楽しむ(ベトナムパビリオン)

3カ所目に訪れたベトナムパビリオンは人形の寸劇が微笑ましく、民俗楽器の演奏はたおやかで、伝統工芸品の彩色は鮮やかだった。

副コミッショナージェネラルのチャン・ニャット・ホアン氏は鳥井氏にずっと付き添い、経済交流について身振り手振りを交えて情熱的な説明を続けた。

鳥井氏は「経済成長を続けている国の勢いを感じた」と語った。余談になるが、大阪とベトナムの間には「即席麺」という太い絆が存在する。エースコック(大阪府吹田市)が現地で展開する即席麺「ハオハオ」はベトナムでシェア4割を占め、知る人ぞ知るトップブランドである。

「井戸を掘った人を忘れない」壁面レリーフ

周恩来首相と握手する佐伯勇団長(第1回関西財界訪中団)の壁面レリーフ

4番目の中国パビリオンで鳥井氏を感激させたのが日中関係の大きな出来事を時系列で表現した壁面のレリーフだ。毛沢東主席と同じ一角に大阪商工会議所の第19代会頭、佐伯勇氏(近畿日本鉄道会長)の姿が掲げられていた。田中角栄首相による日中国交回復の前年である1971年に関西経済界は第1回の関西財界訪中団を派遣し、周恩来首相と会談した。団長を務めたのが佐伯氏だった。

中国の有名な格言は「水を飲むとき、井戸を掘った人を忘れない」。日本政府に先んじて中国との関係構築に動いた関西財界への思いが表れていた。中国政府系の経済団体である中国国際貿易促進委員会の副会長、李慶霜氏は鳥井氏に付きっ切りでアテンドした。

第1回の関西財界訪中団派遣のきっかけは関西同友会代表幹事だった佐治敬三氏(サントリー第2代社長)が「われわれは関西財界による訪中ミッションの編成を逡巡しない」と演説したこと。2024年には8回目の訪中団を派遣し、大商会頭の鳥井氏は関西経済連合会会長の松本正義氏と共同団長を務めた。会談した何立峰副首相に 「万博が日中の人々や企業の活発な交流の実現に役立つ」と伝えると、何副首相は万博に対する強い期待と意気込みを示し、「万博期間中に政府代表団を派遣する」と約束した。

鳥井氏は「サントリーのコピーライターだった開高健氏が1960年に日本文学代表団の一員として中国を訪れ、毛沢東主席や周恩来首相と長時間、会見した」というエピソードを紹介した。

中国古代文字の書体変遷に見入る鳥井氏

中国パビリオンは宇宙開発や深海探査、VRなどを売り物にしているが、「漢字が大好きだ」と語る鳥井氏は中国古代文字「甲骨文」から「宋体」までの書体変遷の展示に釘付けになっていた。筋金入りの漢字フリークで、唐の書家、顔真卿の代表作「祭姪文稿(さいてつぶんこう)」のレプリカをベッドの横に置いているほど。安史の乱(755~763年)で非業の死を遂げた親類に対する弔文の下書きで、次第に乱れていく筆跡に抑えきれぬ悲痛の情が表れている。「内容は難しいが不思議な良さを感じる」と話した。

鳥井氏やサントリーと中国の間には色々と不思議な縁があり、まだまだ語り尽くせていない様子だった。

亡くなられた前ローマ教皇の勅許あればこそ

紀元2世紀の大理石彫刻「ファルネーゼのアトラス」に見入る鳥井氏

大阪商工会議所の鳥井信吾会頭(サントリーホールディングス副会長)は5月20日午後一番に、2025年国際博覧会(大阪・関西万博)で、豪華な展示内容で大人気のイタリアパビリオンを訪れた。バチカン市国のパビリオンも併設している。

入館し、一時待機している部屋の扉が開くと紀元2世紀の大理石彫刻「ファルネーゼのアトラス」が目に飛び込んでくる。日本では初公開。16世紀に彫刻を所持していたファルネーゼ家にちなんでこの名が付いた。天球を背負ってしゃがみ込むギリシア神話の巨人アトラスは科学的知識と巧みな芸術的技巧の融合を象徴しているという。この像に向かって歩を進めた鳥井氏は台座の近くで左右に動き、角度を変えながら観察していた。

カラヴァッジョの代表作「キリストの埋葬」。亡くなられた前教皇の勅許に大感謝

バチカンのスペースにはバロック画家・カラヴァッジョの代表作「キリストの埋葬」が展示されていた。イタリアパビリオンの渉外副担当官、マルティーナ・妙・ドナーティ氏は「バチカンではみんなが反対したが、4月に死去した前教皇フランシスコが『万博で世界中の人々に見てもらうことが大切だ』と説いて展示が決まった」と明かした。鳥井氏は「亡くなられた前教皇の勅許があればこそ実現した。大変感謝している」と語った。

このほかにもレオナルド・ダ・ヴィンチによる「アトランティックコード」の素描などがあり、5月18日からは新たにミケランジェロの彫像「キリストの復活」が追加で公開された。まさに満艦飾でイタリアパビリオンは来場者からの人気がうなぎ登りだ。

ローマ商工会議所と「包括連携協定」調印式

楽しむだけの視察ではなかった。午後3時に同パビリオン内の一室でローマ商工会議所と大阪商工会議所が包括連携協定を結び、調印式を行った。

鳥井氏は「ヨーロッパ文明発祥の地で、古い文化と最先端の技術が融合するローマとの関係強化は重要だ」と語り、さらに「日本人はイタリアの食事が大好きで、ワインを沢山飲む。強い関心を寄せている国だが、これまで経済交流や学術交流は必ずしも十分ではなかった。今後はもっと親密になっていきたい。連携協定はその第一歩になると信じている」と続けた。

ローマ商工会議所のロレンツォ・タリアヴァンティ会頭は「日本は重要な市場なのに過去はそれに見合う付き合いができていなかった。単に観光客の往来や商品の売り買いだけでなく、もっと深い関係を築きたい。ローマは経済やテクノロジーだけでなく国際的な活動を展開する上で大事な拠点になる」と語った。日本とイタリア、英国は次期戦闘機の共同開発プロジェクトを進めている。この観点からもローマ商工会議所との関係緊密化が持つ意味は大きい。

ローマ商工会議所のタリアヴァンティ会頭から記念のメダルを受け取った鳥井氏

タリアヴァンティ会頭は文化の振興や平和の実現、インフラ整備も進めた賢帝ハドリアヌスを刻んだメダルを鳥井氏に贈り、鳥井氏は万博の公式キャラクター「ミャクミャク」をあしらった記念の盾をタリアヴァンティ会頭にプレゼントした。万博がお楽しみだけでなく、ビジネス面でも有効に機能することを証明する一幕だった。

鳥井氏はホスト国の大阪代表の1人として5月13~22日の10日間にローマ商工会議所以外に、スペインや韓国、英国、スウェーデン、米国のナショナルデーやレセプションに出席し、各国の国王陛下や政財界要人の接遇でフル稼働している。

鳥井氏は「海外のみなさんにOSAKAやKANSAIを知ってもらえる最高の機会を逃せない」と語った。

次回開催「サウジアラビア」館で質問攻め

マツコ・デラックスさんそっくりのアンドロイド!

大阪大学教授の石黒浩氏がプロデューサーを務めるシグネチャーパビリオン「いのちの未来」では仏像や能面と、女の子のアンドロイドが同じコーナーに並び、タレントのマツコ・デラックスさんそっくりのアンドロイドは他のアンドロイドと話し合っていた。最後のコーナーではアンドロイドの妖精が舞い、指先の滑らかで細やかな動きはバレリーナのそれを思わせる。

鳥井氏はアンドロイドのメカ部分を熱心に見つめていた。石黒氏は関西企業との交流に積極的で、当然ながら鳥井氏も講演などを聴く機会が多い。予備知識は充分なはずだが、それでもどういう仕組みか気になって仕方ない様子だった。

サウジアラビアパビリオンはアラブ諸国の伝統的な市場「スーク」のイメージで構成されている。多角形に切り出した白い大理石をびっしりと張り付けた高い壁が多数そそり立ち、その間の狭い通路を進む。映画の「インディ・ジョーンズ」シリーズに登場しそうな光景だ。鳥井氏は歴史も大好き。世界遺産「アル・バラド」の旧市街で使われているサンゴ石、リヤド郊外の歴史的な都市ディルイーヤの日干しレンガなどの説明を熱心に聞いていた。

サウジ式コーヒーをお代わりする鳥井氏

途中ではサウジアラビア式コーヒーを振る舞われた。豆は浅煎りで、淹れたコーヒーは薄い茶色。種を抜いた乾燥デーツ(ナツメヤシ)を食べ、小さなカップに注がれたコーヒーを飲む。気に入ったのだろう。鳥井氏はコーヒーをお代わりした。

サウジアラビアは2030年に首都のリヤドで次回万博を開催することが決まっている。鳥井氏は質問攻めにあった。万博開催に向けた準備、課題、段取りなど日本が経験した事柄についてサウジ側は情報を欲していた。

サウジのSNS向け取材を受けた鳥井氏は「歴史のある貴重な展示物を拝見し、感銘を受けた。化石燃料依存を脱しようという取り組みは日本にとって勉強になる。日本とサウジアラビアはもっと文化的な交流、経済的な交流を深めていかねばならない」と語った。

特定非営利活動法人ゼリ・ジャパンが手掛ける「BLUE OCEAN DOME」は3つのドームから構成されている。超撥水塗料を塗布した素材の上を水が玉になって転がりながら流れる近未来的な「ししおどし」を見て楽しみ、段ボール製のポールがドームを支える仕組みに、「(資材を提供した)レンゴーさんはすごいな」と感嘆の声をもらした。

屈指の大人気「アオと夜の虹のパレード」

大人気の「アオと夜の虹のパレード」

大屋根リングの内側に幅約200メートル、奥行き約60メートル、ショーエリア面積約8800平方メートルという弓型の巨大な池があり、中央部にはパリ郊外の新凱旋門「グラン・アルシュ」を思わせる四角い門が立っている。

約300基の噴水が吹き出した水や霧に、レーザー光線やプロジェクションマッピングの映像を投影する水上ショー「アオと夜の虹のパレード」の舞台だ。サントリーHDとダイキン工業が組んで企画した。企業CMを一切入れていないところが潔い。

ナマで観るっきゃない「超絶ショー」!

日増しに観客が増え、正面の席が取れない人は大屋根リングで鈴なりになって鑑賞している。その数は数えきれない。夜2回開演。毎夜、数万人を魅了する屈指の大人気アトラクションだ。鳥井氏は「多くの人に喜んでいただき、ありがたい」と満足げだ。30分間のショーが終わると家路を急ぐ観客は東西両ゲートに向けて歩き出し、朝の通勤ラッシュを思わせる人波が起きる。

鳥井氏は「アンケートでは来場者の8割が満足している。『万博に来て良かった』『もう一度見たい』という声がたくさん寄せられている」と顔をほころばせる。

さらに「7月になれば会場が混むのは明らか。その前がおすすめだ。5月末から6月末までの間にもっと多くの方に来ていただきたい」と語った。

午前9時に訪れた大阪ヘルスケアパビリオンを皮切りにパナソニックグループ、ベトナム、中国、イタリア・バチカン、いのちの未来、サウジアラビア、BLUE OCEAN DOME、大屋根リングを回った。

昼食はイタリアパビリオンのレストラン、夕食はサントリーとダイキン工業が手掛ける「高原レストラン水空」でとった。最後の「アオと夜の虹のパレード」を見終えたのは午後8時。鳥井氏は休憩なしで全行程をこなし、帰途についた。11時間、密着で同行した。手元のスマホに入れてある歩数計アプリは2万歩を示していた。

著者プロフィール

竹田忍 (たけだしのぶ)

産業ジャーナリスト

1983年に神戸大学経済学部を卒業、日本経済新聞社に入社
製造業とエネルギー業界を中心に取材を続け、2006年から編集委員
2024年に日本経済新聞社を退職

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